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盛岡地方裁判所 昭和52年(ワ)125号 判決 1978年7月17日

原告

盛岡市場運輸有限会社

被告

カクイ貨物急送有限会社

主文

被告は原告に対し金六〇万一、九三六円及びこれに対する昭和五二年五月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余は全部被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

被告が金五〇万円の担保をたてたときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一原告の申立と主張

一  請求の趣旨

被告は原告に対し金八九万六、八六三円及びこれに対する本件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の原因

(一)  昭和五二年一月一五日訴外榊保武は被告保有の大型保冷車(以下単に被告車という。)を運転し、東京方面に向け南下中、宮城県古川市の東北高速自動車道のインターチエンジ料金徴収所において、自車の積荷が過量のためブザーが鳴つたのに驚き、突如後退し、同車に後続して通過の順番をまつていた原告所有の保冷車(以下単に原告車という)に衝突し、原告車の前部を破損させた(以下これを本件事故という)。

(二)  右事故は、被告会社の従業員である榊が被告会社の事業の執行中惹き起したもので、民法七一五条により、被告には原告が右事故により蒙つた損害を賠償すべき責がある。

(三)  原告は物品運送を主たる目的とする会社であるが、本件事故により次の損害を受けた。

1 積荷の損失 金三万二、五〇〇円

2 原告車を休車させたことによる得べかりし利益の喪失 金七八万四、三六三円

3 弁護士費用 金八万円

但し、その委細は、別添昭和五三年四月一四日付原告準備書面第二項記載のとおりである。但し同項(二)のA運賃粗収入の記載中、五行目に「その間の稼働日数」とあるのを「その間の稼働可能日数」と訂正する。そこに掲げられた日数はいずれも一カ月の暦日数もしくは暦日数から自動車故障のため運行が物理的に不可能であつた日を差引いた日数で、実働日数ではない。

(四)  よつて、原告は被告に対し右損害額の合計金八九万六、八六三円とこれに対する本件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

第二被告の申立と主張

一  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

仮執行免脱宣言

二  請求の原因に対する答弁

(一)  原告主張の日時場所において被告車と原告車が衝突し、原告車が破損した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  争う。

(三)  原告が運送会社であることは認めるが、損害の主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

原告主張の日時場所で原告車と被告車の衝突事故が発生し原告車が破損したことは当事者間に争いがない。証人高橋均の証言によれば、右事故は原告車がインターチエンジ料金徴収所の入口手前一五メートル位のところで停車中、先に料金徴収所に入つて重量検査を受けていた被告車が、重量オーバーを告げる警報器が鳴ると同時に後退をはじめ原告車の前部に被告車の後部を衝突させたものと認められ、本件弁論の全趣旨から被告車は被告会社の業務のため被告会社の従業員によつて運転されていたと推認されるから、そうすると被告会社は民法七一五条により従業員の過失によつて発生した右事故につき原告に生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

そこで進んで原告の損害について判断する。原告が物品運送を業とするものであることは被告の認めるところである。

(一)  積荷損失

証人高橋均、同高橋次雄の各証言から、本件事故当時原告車は原告が青森県板柳所在青森リンゴ流通センターから依頼されたリンゴを積載していたが、本件事故にあい原告車が破損したので送り先まで被告手配の代替車で輸送したが、その折代車に積みきれなかつた分は凍つてしまつたので原告において廃棄せざるを得なかつた、そのため右積残しリンゴの価格相当分を運賃から差引かれ原告は同額の損害を蒙つたことが認められる。ところが右価格(損害額)が幾らであつたかについては、証人高橋均は積残しはリンゴ小箱一三個であるが、その価格は分らないと述べ、証人高橋次雄の証言はそのいずれについてもあいまいで明白な記憶を失つているとみられる。成程同証言はいちおう原告代理人の示唆を受けて、一三ケース、一箱の価格は三、五〇〇円と答えてはいる。しかし、三、五〇〇円では、三、五〇〇円×一三ケース=三二、五〇〇円にならないといつた原告の主張自体の計算上の誤りもあつて、右高橋次雄の証言によつて価格を認定するには不十分で他にこれを確認するに足る正確な資料もない。結局この点において原告の立証は不十分といわざるを得ない。

(二)  休車損失

証人高橋次雄の証言とこれによつて成立を認める甲第二号証、同第六号証により原告車は本件事故当日から訴外岩手いすゞ自動車株式会社において修理の成つた昭和五二年二月一九日まで原告において使用することが出来なかつたことが知られる。そこで右休車による損害を概算するに

1  証人高橋次雄の証言とこれによつて成立を認める甲第一号証、同第六号証によれば、原告は昭和五一年一〇月から昭和五二年三月までの間、年末年始の期間及び本件事故後の休車期間を除けばあまり休ませずに原告車を運送用に使用していたこと、そして右六カ月間に原告車によつて得た運賃総収入が金六一〇万九、七二〇円であつたことが認められる。なお原告はこれに更に一〇パーセントの報償金が加わると主張するが、その立証はない。

2  収益を計算するには右運賃収入から、原告主張の如く経費管理費を控除しなければならないが、右控除分が右六カ月間の分として別添昭和五三年四月一四日付原告準備書面第二項(二)B、C記載の如く、経費金二五八万九、〇七〇円、管理費金一九万三、三〇三円(10,825,000÷2÷28 円未満切捨)以上合計金二七八万二、三七三円あることを原告が自認する。証人高橋次雄の証言といずれもこれによつて成立を認める甲第四ないし第八号証によれば、右原告の主張額はいちおう根拠あるものとして納得することができる。被告は右原告主張額が保険の査定実務の通常の扱い等に比して僅少すぎると主張するが、経費等の控除分が右原告主張額以上にある形跡は少なくとも本件証拠上は見出されない。そこで右原告の自認する範囲でもつて控除計算をする。そうすると、昭和五一年一〇月から昭和五二年三月までの六カ月間(一八二日)のうち、本件事故直後の原告車の休車期間(昭和五二年一月一六日から同年二月一九日までのうち、被告から代車の提供のあつた七日の期間を除いた二九日)を除いた一五三日間(但し稼働しなかつた日も含む)で原告車のあげた収益はおよそ金三三二万七、三四七円と算定される。

3  原告車が稼働できなかつた期間は前記のとおり本件事故後三六日間である。しかし前掲甲第二号証によれば原告車が実際に訴外岩手いすゞ自動車株式会社の修理工場に入庫していたのはこのうち昭和五二年一月二七日以後の二四日間であり、証人高橋次雄の証言によれば他は右訴外会社の都合で生じたけん引及び待機の期間だというのであるが、甲第三号証中の整備依頼年月日欄には52 1 27とあつて原告が訴外会社に修理を依頼した日が果して事故後即時であつたかどうかに問題があるばかりでなく、また右証人の言うとおりであつたとしてもそれをすべて被告に帰責するのは相当でない。当裁判所は右二四日の修理期間のほか、けん引及び待機の期間として七日程度を本件事故によつて生じた休車の期間とみるのが社会通念上相当であると考える。このうち七日間は被告が代車を提供したことは原告が自認するところである。そこで被告は前記原告車の休車期間中、二四日分を更に賠償すべきである。

そうすると被告の賠償すべき原告車の休車損は、3,327,347×24/153=521936(小数点以下切捨)、金五二万一、九三六円と見積られる。

(三)  弁護士費用

原告が本訴の提起追行を弁護士大沢三郎に委任したことは本訴の経過自体によつてあきらかでその費用報酬中金八万円を本件事故と相当因果関係に立つものと認める。

以上のとおりであるから被告は原告に対し右損害額の合計金六〇万一、九三六円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五二年五月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務がある。

よつて原告の請求をこの範囲で認容し、これを越える分の請求は棄却し、訴訟費用につき民訴九二条、仮執行の宣言及びその免脱につき同一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 海老沢美広)

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